グラインドボーン音楽祭で再び輝く『カーチャ・カバノヴァ』

2025年夏、英国南部の田園地帯で開催されているグラインドボーン音楽祭(Glyndebourne Festival Opera)で、レオシュ・ヤナーチェク作曲のオペラ『カーチャ・カバノヴァ』が再演されています。
上演期間は8月3日〜8月23日
まで。演出はダミアーノ・ミケレット、指揮はロビン・ティチアーティがロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を率いています。


グラインドボーン音楽祭とは

イギリス・サセックス州の大邸宅の庭園内に建つ歌劇場で毎年春から夏にかけて行われる世界的なオペラ・フェスティバル。1934年の創設以来、少人数の観客に高水準のオペラを提供し続け、世界中からファンが集まります。
特徴は、ピクニック形式の幕間休憩。芝生にテーブルやシャンパンを広げ、英国流のエレガントな社交を楽しむことができます。ここから多くの新進歌手や演出家が世界へ羽ばたき、国際的に大きな影響力を持つ音楽祭として知られています。


ヤナーチェクと『カーチャ・カバノヴァ』

作曲家**レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)**はチェコを代表する近代作曲家で、その音楽は民謡的リズムと独自の言語イントネーションを生かした旋律が特徴。
『カーチャ・カバノヴァ』(1921年初演)は、ロシアの劇作家オストロフスキーの戯曲を原作に、厳格な義母と無理解な夫のもとで苦悩する女性カーチャの悲劇を描きます。全3幕、約1時間40分という比較的短い作品ながら、抑圧・罪悪感・愛の渇望といった人間の内面を濃密に描き出す心理劇として高い評価を得ています。


今回の上演の特徴

  • 舞台美術は白い箱型セットを中心としたミニマリスティックな構造。鳥かごや天使像など、カーチャの精神的束縛を示す象徴的アイテムが効果的に配置されました。
  • 照明は表現主義的で、特に淡い緑のライティングが登場人物の心理的緊張を増幅。
  • 歌唱面では、カーチャ役のカテジナ・クニェジーコヴァーが透明感と温かみを併せ持つ歌声で圧倒的存在感を放ちました。カバニチャ役のスーザン・ビックリーは冷酷な支配者像を見事に表現。ボリス役のニッキー・スペンス、ティホン役のマイルズ・マイッカネンらも、人物像の複雑さを的確に描きました。
  • 音楽はロンドン・フィルハーモニー管弦楽団がフル編成で演奏。嵐の場面や終幕のクライマックスは「破壊的なまでの感情の高まり」と評され、音楽的インパクトは絶大です。

批評の声

一部では「象徴主義的な舞台が物語の社会的背景を希薄にした」との指摘もありますが、他方で「詩情に満ちた心理空間に観客を引き込む舞台」として高評価を得ています。
総じて、演出解釈への賛否はあるものの、音楽面・歌唱面では2025年夏の注目公演のひとつといえるでしょう。


公演情報

  • 作品:『カーチャ・カバノヴァ』(レオシュ・ヤナーチェク作曲)
  • 会場:グラインドボーン音楽祭(イギリス・サセックス州)
  • 公演期間:2025年8月3日〜8月23日
  • 指揮:ロビン・ティチアーティ
  • 演出:ダミアーノ・ミケレット
  • 出演
    • カーチャ:カテジナ・クニェジーコヴァー
    • カバニチャ:スーザン・ビックリー
    • ボリス:ニッキー・スペンス
    • ティホン:マイルズ・マイッカネン

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この記事を書いた人

音楽大学大学院でオペラを専攻後、ドイツ・オーストリアに留学。ヨーロッパ各地のオペラハウスの舞台に立つ中で、音楽界の多様性と奥深さ、そしてそのスピード感に魅了される。
帰国後も音楽活動を続けながら、「日本にもっと世界の音楽情報を届けたい」という思いでThe Aria Timesを立ち上げる。
好きなオペラはR.シュトラウスの『ばらの騎士』、最近気になる歌手はSaioa Hernández。美味しいものを食べることと料理を作ることが大好き。子育てに奮闘中。​​​​​​​​​​​​​​​​

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