コメディとして構想された“架空の第2期”が、トランプ再選で現実味を帯びる

画像:Régine Mahaux撮影/Wikimedia Commons/CC BY-3.0(米国)
目次
- Tête à Tête: The Opera Festival とは
- 《Melania The Opera》の物語と設定
- 制作陣と主演メリンダ・ヒューズについて
- なぜイギリスで生まれたのか
- 公演日とまとめ
1. Tête à Tête: The Opera Festival とは
ロンドンを拠点にする団体 Tête à Tête は、2006年に設立されて以来「世界最大の新作オペラ・フェスティバル」と呼ばれるほど、数多くの実験的な作品を世に送り出してきました。
毎年開催されるフェスティバルでは、政治風刺、社会問題、ポップカルチャーを題材とした多彩な作品が、小劇場や実験的空間で上演されます。今回の舞台となる The Cockpit は収容数170ほどの劇場で、観客と舞台が近く、緊張感のある上演が可能です。
コンセプトは「オペラをもっと自由に、親しみやすく、実験的に」
伝統的なオペラとは異なり、風刺、社会問題、ポップカルチャーを題材にした作品が多く並ぶのが特徴です。

画像:Onthemat撮影/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0
2. 《Melania The Opera》の物語と設定
作品の舞台は2027年、ドナルド・トランプが2期目を迎えているという架空の未来。メラニアはキャンペーンのスピーチのため学校を訪問中に、母国スロベニアがロシア軍に侵攻されたとの知らせを受けます。
メラニア・トランプはアメリカ大統領ドナルド・トランプの妻でありながら、公の場での発言が少なく、神秘的な存在として注目されてきました。作曲者たちは、この「沈黙のファーストレディ」の心の中をオペラ的想像力で描き、風刺を交えて「もし彼女が本音を語ったら?」を舞台化しました。
彼女は「沈黙を守るのか、それとも声を上げるのか」という究極の選択に直面します。国際政治や移民問題といったシリアスな題材を含みながらも、本作は “farcical comic opera(風刺的コミック・オペラ)” として、観客にユーモアと批評性を提供することを目指しています。
制作の経緯
最初のきっかけは2017年ごろ、トランプ政権発足直後。Tête à Tête 芸術監督のビル・バンクス=ジョーンズがメリンダ・ヒューズに「オペラにしないか」と提案しましたが、当時は断られました。
その後パンデミック期に、ヒューズがキャバレの新キャラクター「Clemenzia」を立ち上げるなど風刺的な創作を深めたことが転機となり、二度目の打診で企画が本格始動。ジェレミー・リムと共作による作曲・台本作業が進みました。文脈から見て、執筆の中核はバイデン政権期(2021–2025)に進んだと考えられます。
3. 制作陣と主演メリンダ・ヒューズについて
- 音楽・台本:Jeremy Limb(作曲家・ピアニスト)、Melinda Hughes(ソプラノ歌手・作詞家)
- 追加歌詞:Rich Hall(アメリカの風刺コメディアン)
- 演出:Daniel Slater
- 主演:Melinda Hughes(メラニア役)
メリンダ・ヒューズはロンドン出身のリリック・ソプラノで、イギリスの王立音楽大学で学び、オペラでは『マダム・バタフライ』『ラ・ボエーム』など主要オペラで役を務めてきました。
一方で風刺的なコメディにも活躍の場を広げており、今回の作品では主演と脚本の両方に携わります。
リッチ・ホールはアメリカ人のコメディアン・風刺作家で、英国BBCの番組などで人気を博してきました。今回は追加歌詞提供という形で参加。制作の核はイギリス人(Hughes & Limb)としつつも、そこにアメリカ人の風刺家が加わることで、アメリカ政治を題材にしつつも英国的な「風刺の伝統」で料理する構図が浮かび上がります。

画像:Melinda Hughes 撮影/Melinda Hughes Fine Art より提供/All Rights Reserved
4. なぜイギリスで生まれたのか
アメリカ大統領夫人を題材にしながらも、初演の場はアメリカではなくロンドンです。主役がイギリス人であることに加え、イギリスには政治風刺を受け入れる演劇文化が根付いています。さらに Tête à Tête フェスティバルという柔軟なプラットフォームがあったことが大きな理由です。
アメリカ国内で同作品を大劇場にかけることは政治的にセンシティブであるため、まずはイギリスという「自由な実験の場」での上演が選ばれました。
5. 公演日とまとめ
- 初演日:2025年9月25日(木)21:00〜21:40
- 会場:The Cockpit(ロンドン)
- 追加公演:10月2日(木)にも予定あり
上演時間は40分とコンパクトながら、オペラ史上珍しい沈黙のファーストレディに声を与える試みとして注目を集めています。
バイデン政権期に「架空の未来」として着手された作品は、2024年の大統領選挙でトランプが再選したことでどこか現実味を帯びることになりました。風刺と現実が交差するこの作品が、観客にどのように受け止められるのか注目されます。
「フィクションのつもりが、現実と重なってしまった」──その皮肉こそ、このオペラが放つ最大のインパクトです。

主役を演じるメリンダ・ヒューズが扮するメラニア・トランプ
Tête à Tête公式サイトより
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