例年マニアックだからこそ面白い──2025年のテーマは「戦争と平和」

出典: 公式サイト

目次
- はじめに:この音楽祭は何が“特別”なのか
- 歴史と背景:1975年創立〜今日までの歩み
- 「マニアックな復活作品」の魅力
- 2025年の注目ポイント:「戦争と平和」テーマと上演作品
- 芸術的・学術的価値と評価
- まとめ
- 参考リンク
1. はじめに:この音楽祭は何が“特別”なのか
「ヴァレー・ディートリア音楽祭(Festival della Valle d’Itria)」という名前を初めて聞く方も多いかもしれません。こちらはイタリア南東部プーリア州マルティーナ・フランカで毎年夏に開催される国際音楽祭です。
一般的なオペラ祭と異なり、“忘れ去られた作品”や“オリジナル版”にこだわって復活上演する稀有な場として知られています。
会場となるのは、バロック様式の美しい宮殿「パラッツォ・ドゥカーレ」や教会の回廊など、街全体が舞台となる特別な環境です。観客は、南イタリアの夏の空気に包まれながら、音楽史に新たな光をあてる上演を体験できるのです。
2025年のテーマは「戦争と平和」。古典的な名作と20世紀の作品を通じて、この普遍的な問いを多角的に描き出します。
2. 歴史と背景:1975年創立〜今日までの歩み
- 1975年創立:パオロ・グラッシらの構想で初開催。
- 1980年代:ロドルフォ・チェレッティ芸術監督のもと、ベルカントやナポリ派の再評価を推進。
- 1994–2009年:セルガリーニ時代に国際的な広がりを持ち、メイヤベアやリヒャルト・シュトラウス作品などを紹介。
- 2010–2021年:アルベルト・トリオラがバロック・ベルカントを強化、現代作品も導入。
- 2022–2024年:セバスティアン・F・シュワルツが芸術監督。
- 2025年〜:現代作曲家シルヴィア・コラサンティが新芸術監督に就任。さらに学術性と前衛性を深める方針です。
3. 「マニアックな復活作品」の魅力
- ベルカントやナポリ派の掘り起こし:モンテヴェルディ『ポッペアの戴冠』、ロッシーニ『セミラーミデ』など。
- 近代の希少作品:2024年にはオリジナル二人ソプラノ版《ノルマ》、ヘンデル《アリオダンテ》、ニーノ・ロータ《魔法のランプ》を上演。
- 掘り出し物の連続:2022年にはカヴァッリ《クセルクセス》、プロコフィエフの珍作《ル・ジョウール》など。
このように毎年、他では聴けない作品を意欲的に復活させる姿勢が、研究者や専門家からも高く評価されています。
4. 2025年の注目ポイント:「戦争と平和」テーマと上演作品
2025年のテーマは 「Guerre e pace(戦争と平和)」。クラシックの古典と20世紀作品を組み合わせ、戦争と平和を多角的に描きます。
会期:2025年7月18日(金)〜8月3日(日)
- ロッシーニ《タンクレディ(Tancredi)》
開幕公演。7月18日、パラッツォ・ドゥカーレにて。二つの結末を持つ稀少版を再現。戦争の残滓としての“爆撃された遊び場”を舞台化し、悲劇を“子どもの無垢な眼差し”で再生へと導く構造に、二つの結末を再現 - ブリテン《オーウェン・ウィングレイブ(Owen Wingrave)》
戦争拒否を描く異色オペラ。イタリア初演となる注目作。 - ラヴェル《子供と魔法(L’enfant et les sortilèges)》
子どもの空想世界を通じて戦争の影と和解を照射。 - ショスタコーヴィチ「交響曲第14番」
戦争の悲劇と死の影を描く大曲。
さらに、宗教曲コンサートや「退廃音楽(Entartete Musik)」回顧公演、作家・研究者を交えた対話プログラムも開催。音楽と思想を融合させた全20以上のイベントで構成されます。

出典: 公式サイト
5. 芸術的・学術的価値と評価
- アッビアーティ賞(イタリア音楽批評家協会)を通算で10回近く受賞。
- 会場の魅力:マルティーナ・フランカ宮殿の中庭やバロック建築の回廊で上演されるため、非日常的な体験が得られます。

6. まとめ
「ヴァレー・ディ・イトリア音楽祭」は、忘れられた名作の復活と現代的テーマを組み合わせる稀少な音楽祭です。
2025年は「戦争と平和」を掲げ、古典と20世紀作品の対話を通じて、音楽芸術の奥深さを提示します。特に、Rossiniの『Tancredi』の二重結末再現や初演級のオペラ、音楽×語りのクロスセッションなど、有識者をも魅了する内容が詰まっています。
マニアックだからこそ面白い──その姿勢に共感する観客が、世界中から集まる理由です。
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