話題の新作オペラ『The Monkey King(孫悟空)』——実際の評価はどうだったのか?

サンフランシスコオペラの肝煎り作品 レビューの傾向と観客の反応

2025年11月、サンフランシスコ・オペラで世界初演された新作オペラ 『The Monkey King(孫悟空)』。 この作品は、上演前から業界内外で「異常なほどの注目」を集めていました。 では実際に幕が上がったあと、評価はどうだったのでしょうか。 本記事では、レビューの傾向と観客の反応をもとに、その実像を整理します。


目次

注目の理由:作曲家と台本家が桁違いにすごい

作曲:黄若(Huang Ruo/ホアン・ルオ)

本作の作曲を手がけた黄若(ホアン・ルオ)は、中国出身・アメリカ拠点の作曲家で、 現代クラシック界においてすでに世界的な評価を得ている人物です。

  • メトロポリタン・オペラ、ロサンゼルス・オペラ、サンフランシスコ・オペラなどから委嘱歴あり
  • オペラ、交響曲、室内楽、映画音楽まで幅広く活躍
  • 東洋的要素と西洋音楽の構造を自在に行き来できる数少ない作曲家

すでに「名前だけで注目されるレベル」にあり、この作品自体が非常に高い期待値で迎えられていました。

作曲家 黄若(ホアン・ルオ)

台本:デイヴィッド・ヘンリー・ファン(David Henry Hwang)

台本を手がけたデイヴィッド・ヘンリー・ファンは、ブロードウェイでも高く評価されてきた劇作家で、 トニー賞受賞経験もある世界的なストーリーテラーです。

  • 舞台・映画で多数の受賞歴
  • アジア系アメリカ人の物語やアイデンティティを多く扱ってきた人物
  • 「物語の強さ」で評価される劇作家
劇作家 デイヴィッド・ヘンリー・ファン

世界的作曲家 × 世界的ストーリーテラー
この事実だけでも、本作が「普通の新作ではない」と言われた理由が分かります。


実際に上演されて、特に高く評価されたポイント

① オペラらしくない、圧倒的な視覚体験

本作で最も話題になったのは、舞台そのもののスケールと演出です。

  • 巨大なシルク布が空間を覆い、天界・海底・雲の上などを表現
  • 歌手だけでなく、ダンサー・パペット(人形)が同時に動く
  • 主人公「孫悟空」が、歌手・ダンサー・人形の3つの存在として表現される

多くのレビューで共通していたのは、 「これは鑑賞というより“体験”に近い」という声でした。 オペラという枠を超え、現代美術やパフォーマンスアートのような空気感をまとっていた、と評されています。

②音楽は、演出に埋もれない確かな実力があった

ビジュアルが圧倒的である一方、音楽も決しておろそかではありません。

  • 西洋オーケストラの力強さ
  • 中国的な音感と瞑想的な静けさ
  • 緊張と解放、混沌と秩序のコントラスト

これらが「意味を持って」配置されている点が、多くの批評家から高く評価されました。

また、孫悟空役を歌ったテノール、カン・ワン(Kang Wang)は、 歌唱と身体表現の両面で注目を集め、「新たなスターの誕生」と評する声も出ています。


テノール歌手カン・ワン(Kang Wang)

一方で、「違和感」を覚えた人がいたのも事実

● 演出が強すぎる、情報量が多すぎる

伝統的なオペラを愛する層の中には、

  • 動きが多すぎて集中できない
  • 視覚情報が多く、歌に集中しにくい
  • 「これはオペラなのか?」という意識になる

といった感想もありました。 これは作品の欠点というより、「オペラに何を求めているか」という価値観の違いが如実に表れた部分だと言えます。

● 『西遊記』を知らないと、少し入りづらい

本作は中国古典『西遊記(Journey to the West)』がベースとなっているため、

  • 孫悟空とは何者なのか
  • なぜ神や仏が登場するのか
  • 物語の背景にある思想

などを知らないと、世界観をつかみにくいと感じた観客もいました。 逆に言えば、知っている人ほど“深く刺さる作品”でもあります。


結論:「話題先行」ではなかった?

結論として『The Monkey King』は、話題だけが先行した作品ではありませんでした。

  • 話題性は本物だった
  • 内容もそれに十分応えていた
  • ただし、万人向けではなかった

革新性・ビジュアル・文化的意味を重視する人には強く刺さり、 伝統的なオペラ観を大切にする人には少し異質に映る可能性がある――。

それでもなお、この作品が示したのは、 「オペラは、まだこんなにも更新できる」という可能性でした。

サンフランシスコオペラの本拠地 戦争記念歌劇場

画像クレジット

  • © San Francisco Opera / War Memorial Opera House
  • © Playbill / Huang Ruo Official Press
  • © China Daily Press Photo
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この記事を書いた人

音楽大学大学院でオペラを専攻後、ドイツ・オーストリアに留学。ヨーロッパ各地のオペラハウスの舞台に立つ中で、音楽界の多様性と奥深さ、そしてそのスピード感に魅了される。
帰国後も音楽活動を続けながら、「日本にもっと世界の音楽情報を届けたい」という思いでThe Aria Timesを立ち上げる。
好きなオペラはR.シュトラウスの『ばらの騎士』、最近気になる歌手はSaioa Hernández。美味しいものを食べることと料理を作ることが大好き。現在は子育てに奮闘中。​​​​​​​​​​​​​​​​

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