米カウンターテナー、大学を提訴 ― 性的暴行有罪後の解雇めぐり

世界的カウンターテナーDavid Daniels(デイヴィッド・ダニエルズ)— 母校ミシガン大学を提訴

掲載日:2025年1月16日(AP News) / 更新:2025年2月10日(訴訟棄却判決)

世界的なカウンターテナー歌手であり、ミシガン大学の声楽教授でもあったデイヴィッド・ダニエルズが、大学による解雇を不当として訴訟を起こしました。 今年初頭のニュースですが、舞台での名声と教育現場での責任が交錯する音楽界、それも少し閉鎖的な部分も残る日本の教育現場でも関係がないとは言い切れない注目のニュースです。

目次

プロフィール:オペラ界を代表するカウンターテナー

名前:David Daniels(デイヴィッド・ダニエルズ)
生年月日:1966年3月12日/アメリカ・サウスカロライナ州出身
専門:カウンターテナー歌手・声楽教授
勤務先:University of Michigan(ミシガン大学)音楽・演劇・ダンス学部 教授(Professor of Music – Voice)
夫:Scott Walters(スコット・ウォルターズ)指揮者・音楽家

ダニエルズは、現代を代表するカウンターテナーとして国際的に高い評価を受けてきました。 ウィキペディアによると、 1999年にはメトロポリタン歌劇場でハンデル作曲『ジュリオ・チェーザレ』に出演。 ドイツ・ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場などでも主役を務め、「現代カウンターテナー界の旗手」と呼ばれてきました。 1997年にはリチャード・タッカー賞も受賞しています。

教員としては2015年にミシガン大学に着任し、2018年にテニュア(終身在職権)を取得。 声楽科教授として、学生に歌唱指導や個人レッスンを行っていました。

声楽家として演奏するデイヴィッド・ダニエルズ

夫スコット・ウォルターズについて

ダニエルズの夫、スコット・ウォルターズ(Scott Walters)は指揮者・音楽家として活動しており、 2014年6月にはアメリカ連邦最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏の立会いで結婚。 夫妻は公私ともに密接に音楽活動を行っていましたが、 のちに性的暴行事件で共に起訴され、有罪答弁をしています。 AP News(2023年12月21日)

 裁判を受ける デイヴィッド・ダニエルズ(左)&スコット・ウォルターズ(右)夫妻。
出典:The New York Times(2023年8月4日号)© The New York Times

事件と訴訟の経緯

  • 2010年:テキサス州ヒューストンで大学院生がダニエルズ夫妻から性的暴行を受けたと訴える。被害者は薬物を飲まされた状態で意識を失ったと主張。 (AP News報道
  • 2015年:ダニエルズ、ミシガン大学に教授として着任。
  • 2018年:学生との不適切な関係・性的な誘い・画像送信などの疑惑が複数寄せられる。 大学が内部調査を開始。報告書では「キャリア支援をちらつかせた性的関係の要求」などが記載されました。 (AP News(2025年1月16日)
  • 2020年3月:大学理事会がダニエルズの解雇を全会一致で決定。テニュア教授でありながら、退職金なしの懲戒解雇となりました。
  • 2023年8月:テキサス州の事件でダニエルズ夫妻が有罪答弁。保護観察8年および性犯罪者登録を命じられます。 (AP News(2023年12月21日)
  • 2025年1月16日:ダニエルズが大学を提訴。「解雇手続きに不備があり、不当な扱いを受けた」と主張。 (AP News(2025年1月16日)
  • 2025年2月10日:デトロイト連邦地裁が「提訴が遅すぎる」として訴えを棄却。 (AP News(2025年2月10日)

大学とダニエルズ側の主張

ミシガン大学側は「内部調査で学生への不適切行為が確認され、手続きは適正に行われた」と主張。

一方でダニエルズ側は「テニュア教授としての権利を侵害された」「通知・反論の機会が与えられなかった」として損害賠償を求めました。

訴訟の詳細は以下の記事で報じられています。
👉 AP News:Fired opera singer sues University of Michigan
👉 AP News:Judge tosses Daniels’ lawsuit

オペラ界・音楽教育界への影響

音楽の世界では、いまだに師弟関係の力が強く、学生や若い演奏家が自由に意見を言えない場面も少なくありません。
その中で、性的・精神的なハラスメントが見過ごされてきたことも事実です。
教育の名のもとに行き過ぎた指導や、立場の差を利用した不当な扱いは、どんなに伝統的な環境であっても許されるべきではありません。

これからの音楽教育が、
誰もが安心して学び、音楽そのものに集中できる場所になることを願っています。
生徒が何かを“差し出す”ことで居場所を得るのではなく、才能と努力が正当に評価される、健全な文化が根づいてほしいと思います。

出典: AP News(2025/01/16)AP News(2025/02/10)AP News(2023/12/21)Wikipedia

カテゴリ:オペラニュース / タグ:ハラスメント教育と芸術オペラ界

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この記事を書いた人

音楽大学大学院でオペラを専攻後、ドイツ・オーストリアに留学。ヨーロッパ各地のオペラハウスの舞台に立つ中で、音楽界の多様性と奥深さ、そしてそのスピード感に魅了される。
帰国後も音楽活動を続けながら、「日本にもっと世界の音楽情報を届けたい」という思いでThe Aria Timesを立ち上げる。
好きなオペラはR.シュトラウスの『ばらの騎士』、最近気になる歌手はSaioa Hernández。美味しいものを食べることと料理を作ることが大好き。現在は子育てに奮闘中。​​​​​​​​​​​​​​​​

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