ハンブルク州立歌劇場に新体制、クラッツァー氏が就任 若手指導陣とナチス時代の影

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新総監督就任も、資金提供者のナチス協力歴史に国際的批判

🇩🇪ハンブルク発 – ドイツの名門ハンブルク州立歌劇場で2025年夏、新たな芸術体制が始動した。45歳の気鋭演出家トビアス・クラッツァー氏(Tobias Kratzer)が芸術総監督(インテンダント)に就任し、2025/26シーズンから劇場運営の指揮を執る。

若手中心の新体制

クラッツァー新総監督と共に、音楽総監督にはオメル・マイア・ヴェルバー氏(Omer Meir Wellber)、バレエ芸術監督にはデミス・ヴォルピ氏(Demis Volpi)が就任し、40代を中心とした新世代のリーダーシップ体制を構築した。

1980年生まれのクラッツァー氏は、2019年バイロイト音楽祭でワーグナーの「タンホイザー」を演出するなど、革新的な舞台作りで国際的な評価を得ている演出家として知られる。同氏は前任のジョルジュ・デルノン総監督(Georges Delnon)から引き継ぎ、意欲的なプログラムの実現を目指している。

新オペラハウス建設と巨額寄付

一方で、劇場を巡る大きな話題となっているのが新オペラハウス建設計画だ。ドイツ最富裕層の一人である実業家クラウス=ミヒャエル・キューネ氏(Klaus-Michael Kühne)が、建設費用として約3億ユーロ(約480億円)の寄付を表明している。これは文化施設への個人寄付としては異例の規模となる。

新オペラハウスはハンブルク市の水辺近くに建設予定で、同市の新たな文化拠点として期待されている。

ナチス協力の歴史を巡る論争

しかし、この巨額寄付を巡って国際的な論争が起きている。キューネ氏が会長を務めるキューネ・アンド・ナーゲル社(Kühne + Nagel)は世界最大級の物流企業だが、第二次世界大戦中にナチス政権と協力し、ユダヤ人から略奪された物品の輸送に関与していたとされる。

この歴史的経緯について、キューネ氏側は詳細な調査に応じる姿勢を示していないとして、ユダヤ系団体やメディアから批判が上がっている。米国のユダヤ系通信社JTA(Jewish Telegraphic Agency)や英字紙タイムズ・オブ・イスラエルなども、この問題を大きく報じている。

文化支援と歴史責任の課題

キューネ財団は長年にわたってハンブルク州立歌劇場への支援を続けており、前音楽総監督ケント・ナガノ氏(Kent Nagano)の契約延長も同財団の支援により実現していた。文化事業への貢献は一定の評価を得ている一方で、戦時中の企業活動に対する説明責任を求める声も根強い。

この問題は、現代ドイツ社会における戦後処理、企業の歴史的責任、そして文化支援のあり方について複雑な議論を提起している。

今後の展望

クラッツァー新総監督は、こうした外部の論争とは別に、芸術面での革新的な取り組みを進める方針を示している。新体制下での最初のシーズンには、シューマンのオペラ作品など意欲的な演目が予定されており、同氏の演出手腕に注目が集まっている。

ハンブルク州立歌劇場は1678年に設立された歴史ある劇場で、ドイツオペラ界の重要な拠点の一つ。新体制と新オペラハウス計画により、さらなる発展が期待される一方、歴史的課題への対応も注視されている。

。本記事は公開情報に基づいて作成されています。以下は現在のハンブルク州立歌劇場

📌参考リンク

  1. WELT(ドイツ有力全国紙)
    クラッツァー新体制と新オペラハウス建設、クーネ氏の寄付について
    http://www.welt.de/politik/deutschland/article255492552/Plan-fuer-neue-Oper-Hamburg-und-sein-milliardenschwerer-Zwangsbegluecker.html
  2. JTA(Jewish Telegraphic Agency)
    クーネ家とナチスの関係を国際的な視点で詳しく報道
    http://www.jta.org/2025/07/23/global/the-patron-behind-hamburgs-new-opera-house-has-resisted-scrutiny-of-his-familys-nazi-collaboration
  3. Hamburger Abendblatt(ハンブルク最大の地方紙・老舗)
    クーネ氏とナチス時代との関係が海外メディアに報じられたことへの地域の反応
    http://www.abendblatt.de/hamburg/kultur/article409582092/lange-schatten-der-ns-zeit-hamburgs-opern-neubau-in-der-new-york-times-klaus-michael-kuehne.html
  4. Times of Israel(国際的な英字ユダヤ系メディア)
    同上の問題をタイムズ紙の視点で報道
    http://www.timesofisrael.com/hamburg-opera-house-funder-has-resisted-scrutiny-of-familys-nazi-collaboration/
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この記事を書いた人

音楽大学大学院でオペラを専攻後、ドイツ・オーストリアに留学。ヨーロッパ各地のオペラハウスの舞台に立つ中で、音楽界の多様性と奥深さ、そしてそのスピード感に魅了される。
帰国後も音楽活動を続けながら、「日本にもっと世界の音楽情報を届けたい」という思いでThe Aria Timesを立ち上げる。
好きなオペラはR.シュトラウスの『ばらの騎士』、最近気になる歌手はSaioa Hernández。美味しいものを食べることと料理を作ることが大好き。子育てに奮闘中。​​​​​​​​​​​​​​​​

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