ドイツの小都市が快挙!レーゲンスブルク劇場が「Best Opera House 2025」を受賞

地方都市劇場が世界水準に――ドイツ・レーゲンスブルクの Theater Regensburg が2025年度「Best Opera House」を受賞

ドイツ・バイエルン州レーゲンスブルクの複合劇場 Theater Regensburg が、OPER! AWARDSの2025年度「Best Opera House」を受賞しました。授賞ガラは 2026年2月23日 に同劇場で行われる予定です。

目次

審査基準:いま求められる「現代のオペラハウス像」

① 新しいものを増やし、既知のものを減らす――“挑戦”を恐れない編成姿勢

定番演目の安全圏にとどまらず、現代作品や再発見されたオペラを積極的に上演する姿勢が評価されました。レーゲンスブルク劇場では《1984》(ロリン・マゼール)や《白バラ》(ウド・ツィンマーマン)など、社会的テーマや再発見の価値を持つ作品を取り入れ、観客に“まだ知らない音楽劇の魅力”を提示しています。これは単なる新作主義ではなく、「オペラという芸術の多様な形を信じる勇気」を体現した編成方針を評価されました。

② 地域社会への開放性と参加――劇場を“みんなの場所”に

審査では、劇場が地域の中でどれだけ開かれているかも重要な視点とされました。レーゲンスブルク劇場は、市民参加型プロジェクトや教育プログラム、若者劇場の拡充など、地域社会を芸術活動に巻き込む取り組みを進めています。観客は単なる“来場者”ではなく、創造の一部となる――その姿勢が地方劇場のモデルケースとして称賛されました。

③ アクセシビリティとサステナビリティ――未来を見据えた運営哲学

物理的なバリアフリーだけでなく、経済的・社会的なアクセスのしやすさ、そして環境に配慮した劇場運営が高く評価されました。サステナブルな制作体制、地域エネルギーとの協働、文化への公平なアクセスを掲げる姿勢は、現代のヨーロッパ劇場が直面する課題に対する模範例です。レーゲンスブルク劇場は「芸術を持続可能にする」という観点でも高評価の対象になりました。

OPER! AWARDS と「Best Opera House」について

OPER! AWARDSは、音楽ジャーナリストから成る審査団が20部門で選出する、ドイツ発の国際オペラ賞です。授賞式の会場は毎年「Best Opera House」を受賞した劇場で行われ、2025年度はTheater Regensburgが会場となります。

審査委員長コメント(原文+日本語訳)

“More of the new, less of the familiar, embracing openness instead of programmatic caution, and an unshakable belief in the right of musical theatre to exist in all its forms, colours, and varieties …”

訳:「プログラム上の慎重さではなく開放性を抱きしめ、『新しいものをより多く、見慣れたものをより少なく』。そして音楽劇があらゆる形・色・多様性で存在する権利への確固たる信念。」

“… under its artistic director Sebastian Ritschel, the Theatre Regensburg shows great readiness to take risks, but its rate of success is high. Audiences, trust, and approval follow quality – regionally and, for quite some time now, nationwide as well.”

訳:「芸術監督セバスティアン・リッチェルの下、レーゲンスブルク劇場は大胆なリスクテイクを厭わず、しかも高い成功率を示している。地域ではもちろん、近年は全国レベルでも、質の高い取り組みに観客・信頼・支持が続いている。」

“The call for a broader repertoire is often heard, yet rarely fulfilled – not so in Regensburg, where it is common practice! … Innovations with regard to participation, accessibility, community building, and sustainability demonstrate further how a theatre must indispensably anchor itself within civic society.”

訳:レパートリーの拡張はしばしば叫ばれるが、実現は稀だ――しかしレーゲンスブルクではそれが常態である! さらに、参加・アクセシビリティ・コミュニティ形成・サステナビリティに関するイノベーションは、劇場が市民社会に不可欠な形で根を下ろすべき手本であることを示している。」

(出典:OPER! AWARDS公式コメント。リンクは末尾に掲載)

「新しいものを多く、既知のものを減らす」とは――具体例

同劇場は、定番の大作一辺倒ではなく、再発見現代作品初演・独初演級のレア曲を積極的に組み込む方針を明確にしています。2025/26のスローガンは「EXISTENZEN(人間存在)」で、29本のプレミエ/31公演のコンサートを掲げています。

近年の象徴的なラインアップ

  • L. マゼール《1984》(独初演・2023):オーウェル原作の稀少作を、リッチェルの演出で上演。現代社会を抉るテーマと多彩な音楽語法で「再発見」路線の象徴に。
  • U. ツィンマーマン《白バラ(Weiße Rose)》:少人数編成のカンマーオーパー。歴史的主題への鋭い眼差しと濃密な室内楽的サウンドで、劇場の“小粒でも質の高い”企画力を示す例。

このほか、演劇・ダンスとのクロスオーバー、若者・コミュニティ部門の充実、サステナビリティへの配慮など、編成と運営を両輪で革新している点が評価に直結しています。

なぜ地方都市の劇場がここまで来たのか:経緯と体制

  • 芸術監督の交代(Sebastian Ritschel, 2022/23〜)を契機に、レパートリーの拡張と“再発見+実験”のバランスを前面化。
  • 自前アンサンブルの強化と、制作部門(演出・ドラマトゥルギー・舞台美術・映像など)の一体運用。
  • Community Theater / 若者セクションの拡充や、市民参加・アクセシビリティの制度化。

結果として、地域密着型の中規模劇場でありながら、ドイツ全国レベルでの存在感を高め、国際的な受賞へと繋がったと考えられます。

芸術監督のセバスティアン・リッチェル © Tom Neumeier Leather

過去の「Best Opera House」受賞(抜粋)

  • 2025(評価年):Theater Regensburg(授賞式は2026年2月23日・会場=Regensburg)
  • 2024(評価年):La Monnaie / De Munt(ブリュッセル)
  • 2023(評価年):Oper Dortmund(ドルトムント)

※OPER! AWARDSでは、原則として前年(カレンダーイヤー)の活動実績を評価対象としています。

レーゲンスブルクという町

ドイツ南部・バイエルン州に位置するレーゲンスブルクは、ミュンヘンから北へ約120km、ドナウ川のほとりにたたずむ歴史都市です。ロマンティック街道の主要ルートからは少し外れますが、その延長にある「もうひとつの古都」として知られ、訪れる人を中世の時代へと誘います。ドナウ川沿いに広がるレーゲンスブルク旧市街(Altstadt mit Stadtamhof)は、2006年にユネスコ世界遺産に登録。ローマ遺構からロマネスク/ゴシックまで多層の歴史建築が残る町です。観光都市としての基盤と住民の文化的関心の高さは、劇場運営にとっても追い風になっているといえるでしょう。

レーゲンスブルクの街並み

まとめ:地方から世界水準へ

「定番を並べるだけではない」編成戦略、地域と共にある運営、そして機動力の高い制作体制。Theater Regensburgの受賞は、地方都市でも高度な芸術拠点が成立し得ることを実証しました。規模として「大都市の巨大オペラハウス/劇場」ほどの予算・人材・知名度を最初から持っていたわけではない、という下地を、「地域密着・市民参加」「ジャンル横断」「再発見・実験的プログラム」といった革新的な施策を存分に生かした結果、今回の受賞につながったのではと思います。

レーゲンスブルク歌劇場の外観

リンク・出典

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この記事を書いた人

音楽大学大学院でオペラを専攻後、ドイツ・オーストリアに留学。ヨーロッパ各地のオペラハウスの舞台に立つ中で、音楽界の多様性と奥深さ、そしてそのスピード感に魅了される。
帰国後も音楽活動を続けながら、「日本にもっと世界の音楽情報を届けたい」という思いでThe Aria Timesを立ち上げる。
好きなオペラはR.シュトラウスの『ばらの騎士』、最近気になる歌手はSaioa Hernández。美味しいものを食べることと料理を作ることが大好き。現在は子育てに奮闘中。​​​​​​​​​​​​​​​​

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