【体力おばけ】ピョートル•ベチャワが41時間でワーグナー2公演

ドイツ・バイロイト発 – ポーランド出身のテノール歌手ピョートル・ベチャワ(58歳)が、クラシック音楽界で極めて稀な挑戦を成し遂げた。ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場でワーグナーの楽劇「ローエングリン」のタイトルロールを歌い終えてから41時間足らずで、241キロ離れたバイロイト祝祭劇場で同じ演目の異なる演出版に出演したのだ。

極限への挑戦

ワーグナーの楽劇は、クラシック音楽の中でも最も過酷な役柄として知られている。通常、歌手は声帯の回復のため、公演間に2〜3日の休息を取るのが慣例だ。しかしベチャワは、7月30日にミュンヘンで最終公演を終えた後、8月1日にはバイロイトの舞台に立ち、両会場で雷鳴のような喝采を浴びた。

「クリスティアン・ティーレマン指揮者がこのプロダクションでバイロイトに戻ってくるということで、少しプレッシャーを感じていました」とベチャワは語る。「2018年と2019年に一緒にやったので、この狂気のスケジュールに合意したんです」

限られたリハーサル時間での熟練技

ベチャワと出演者たちは、ユヴァル・シャロンが手がけた2018年のバイロイト・プロダクションの再演のため、7月12日にスタジオで4時間の動きの確認を行い、翌日にはワーグナーの仕様に基づいて建設された劇場で7時間半の最終ゲネプロを実施した。

その後、7月14日にミュンヘンに移動し、18日には第150回ミュンヘン・オペラ・フェスティバルでリサイタルを開催。続いて7月27日と30日にコルネル・ムンドルツォが演出した2022年版「ローエングリン」に出演した。翌朝、ベチャワは車でバイロイトに戻り、午後3時からティーレマン指揮による音楽リハーサルに参加した。ティーレマンは2016年にベチャワの初「ローエングリン」を指揮した指揮者でもある。

バイロイトでは8月9日まで3回の追加公演が予定されている。

舞台裏の細やかな配慮

このような過酷なスケジュールを支えるため、舞台裏では様々な工夫が凝らされた。公演中の水分補給では、小さな穴を通したストローを使用するなど、歌唱に影響を与えない細かな配慮が施された。こうした技術的なサポートが、ベチャワの驚異的なパフォーマンスを可能にした。

専門家からの評価

バイエルン州立歌劇場のセルジュ・ドルニー総監督は、「以前に異なる演出でローエングリンを歌った経験があることで、彼は様々な演出ビジョンに流動的に適応できる成熟した解釈を持っています。両方の舞台への準備は細心を極め、彼が完全なプロ意識と集中力で各公演に臨むことを我々は確信していました」と評価している。

この前例のない連続公演は、ベチャワの卓越した体力と芸術的能力、そして現代オペラ界の技術的サポートの進歩を証明する出来事となった。クラシック音楽ファンの間では、この「体力おばけ」ぶりが大きな話題となっている。

ローエングリン(Lohengrin)|ミュンヘン公演

公演期間:2025年7月23日・27日・30日(※ベチャワ出演は7月27日)

会場:バイエルン州立歌劇場(Bayerische Staatsoper, Munich)

上演時間: 約4時間30分(休憩2回含む)

言語/字幕: ドイツ語上演(英語・ドイツ語字幕あり)

指揮: François-Xavier Roth

演出: Kornél Mundruczó

舞台美術: Monika Pormale

衣装デザイン: Monika Pormale

照明: Michael Bauer

キャスト:

Lohengrin:Piotr Beczała

Elsa von Brabant:Johanni van Oostrum

Friedrich von Telramund:Tómas Tómasson

Ortrud:Ekaterina Gubanova

King Heinrich:Christof Fischesser

Der Heerrufer des Königs:Sean Michael Plumb

ローエングリン(Lohengrin)|バイロイト公演 

公演期間:2025年7月29日・8月2日・6日・10日・15日・18日(※ベチャワ出演は7月29日)

会場:バイロイト祝祭劇場(Bayreuther Festspielhaus, Bayreuth)

上演時間: 約4時間15分(休憩2回含む)

言語/字幕: ドイツ語上演(字幕なし)

指揮: Christian Thielemann

演出: Yuval Sharon(2018年演出の再演)

舞台美術: Neo Rauch

衣装デザイン: Rosa Loy

照明: Reinhard Traub

キャスト:

Lohengrin:Piotr Beczała

Elsa von Brabant:Elsa Dreisig

Friedrich von Telramund:Martin Gantner

Ortrud:Petra Lang

King Heinrich:Georg Zeppenfeld

Der Heerrufer des Königs:Tareq Nazmi

出典リンク

AP News
Tenor Piotr Beczała sings different productions of Wagner's 'Lohengrin' 41 hours apart The tenor Piotr Beczała has been impressing audiences with his back-to-back performances in Wagner's “Lohengrin” in less than 41 hours.

https://www.usnews.com/news/entertainment/articles/2025-08-04/tenor-piotr-becza%C5%82a-sings-different-productions-of-wagners-lohengrin-41-hours-apart

https://www.startribune.com/tenor-piotr-beczala-sings-different-productions-of-wagners-lohengrin-41-hours-apart/601449240

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この記事を書いた人

音楽大学大学院でオペラを専攻後、ドイツ・オーストリアに留学。ヨーロッパ各地のオペラハウスの舞台に立つ中で、音楽界の多様性と奥深さ、そしてそのスピード感に魅了される。
帰国後も音楽活動を続けながら、「日本にもっと世界の音楽情報を届けたい」という思いでThe Aria Timesを立ち上げる。
好きなオペラはR.シュトラウスの『ばらの騎士』、最近気になる歌手はSaioa Hernández。美味しいものを食べることと料理を作ることが大好き。子育てに奮闘中。​​​​​​​​​​​​​​​​

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